「正食と人体」第二部 正食法入門 一倉定著
正常な体温維持が人体の健康守る秘訣とぞ知れ
正食の基本理論
人体は自然の産物である。
それは、自然の原理の上に成り立っている。
健康の原理とは陰陽のバランス〃であることは既に述べた通り、「ナトリウムとカリウムのバランスの上に成り立っている」というのが石塚理論であり、これを陰陽≠ノ置きかえた桜沢理論により、陰陽のバランス≠ニいうことになる。この理論こそ、宇宙の根本原理であることはすでに述べた。
しかし、現代医学にも栄養学にもこの理論はない。僅かに未開発国の食事に、この理論の実際的な証明が見られるだけとなってしまった。
これが、すべての文明国において、病気が急増している根本原因である。
いくら健康を望んでも、この「陰陽原理」に基づかない限り健康は
絶対に手に入らないのだ。そこで、まず「陰陽原理」の説明から人らせていただく。
食物の陰陽原理
「正食理論」では、〃陰″はカリウム、陽≠ヘナトリウムのことである。
石塚理論を陰陽〃と置きかえ使っているのである。
陽〃の特性は、温める(温かい)、明るい、動く、締まる、というようなものであり、
〃陰″は冷やす (冷える)、暗い、動かない、ゆるむ、などが主なものである。
その、人体におけるバランスは、
カリウム〈5〉〜〈7〉 対 ナトリウム〈1〉というのが石塚理論である。
これは、ナトリウムとカリウムのそれ自体のバランスではなくて、
人体が健康状態にある時をもって「陰陽のバランス」といっており、
実際の陰陽のバランス点よりやや陽側にあるほうがよい。
熱は常時発散するので常時補充が必要だからだ。
人間は温血動物だから、その陰陽のバランスは陽側にあるわけである。
それは脇の下で計って三十六度〜三十七度である。
この範囲が健康状態であり、この範囲を越えると病気になる」(一倉仮説)のである。
その基本メカニズムは次の通りである。
人間の食物は、それが自然の状態では、必ずナトリウムとカリウムの両方を含んでいるといっていい
そのために、ナトリウムの含有量の少ない食物を多くとり、
カリウムの含有量の多い食物をとっていると、カリウム過多でナトリウム不足となり、
カリウムが多すぎる場合は、血液が陰性化する。
カリウムは身体を冷やす。これが冷え性〃といわれている状態である。
さらに、カリウムの特性のところを参照していただけば、カリウムは、ゆるむ、動かないという特性を持っている。
そのために、全身の筋肉がゆるんで筋肉の働きが弱くなる。
その上寒い時期だと、冷えてなお筋肉の動きを悪くする。
お腹を冷やすとお腹をこわすのは、胃や腸の筋肉の働きが弱って消化不良を起こすからである。
さらに、腸を冷やすと腸の筋肉の蠣動が悪くなって、腸内の食物を下に押し下げる力がなくなって便秘する。
また、寒い時期の駅伝競争などでは、朝の気温が低い時には、筋肉が冷えて動きがにぶくなる。
それを、ムリに走ると筋肉にムリがかかってケイレンを起こす。
ケイレンは、
「これ以上筋肉を動かすと、筋肉が傷んでしまうので、足るのをやめなさい」という自然治癒力の信号である。
テレビで見たのが、ある駅伝競争の時の第一走者の朝食が、
「パンとコーヒー」だということでは、
パンが陰性、コーヒーも陰性、そして砂糖が陰性、僅かにミルクだけが陽性だが量が少ない。
ケイレンが起こるのが当たり前である。
以上は陰性症状の一部だが、それだけではなくて、
全身の筋肉がゆるむ、心臓の筋肉がゆるみ、力が落ちて十分に全身に血液を送れなくなる。
肺の呼吸筋がゆるんで、十分な空気を肺に送れなくなる。
視力も落ちれば脳の働きも弱くなる。消化器の働きも弱くなる。
このような陰性が長期間続くと、さまぎまな陰性症状が起きて、
数十、いや三桁以上にも及ぶ体調不良が起こってくる。
そして、これが続くと本格的な病気になってゆく。
現在の日本人の大部分は、「塩分ひかえめ」のキャンペーンによって陰性体調となり、
これがもとでさまざまな病気になって苦しんでいるのである。
反対に、身体が陽性化しすぎたらどうなるだろうか。
体温が高くなって、熱を体外に放出しなければならず、貴重なエネルギーを浪費する。
ちょっと動いても体温が上がる。これが長く続くとどうなるか。夏季の状態を考えればわかる。
体温が高くなるのを防ぐために汗を出す。汗とともに発熱体である塩を体外に出す。
汗はその外に老廃物も出せば、貴重なミネラルも体外に出して、ミネラル不足を起こす。
汗で塩分が出てゆくので、その分身体は体温上昇を妨げるが、塩分不足で陰性になる。
同時にさまざまなミネラルを体外に出してしまうので、ますます体調調整がやりにくくなって、
身体がだるくなり、動作はノロノロ、頭に送る血液も塩分不足になっているので、
頭がボーッとして頭を使うのがいやになる。
ムリに頭を使えば脳細胞が破壊されるので、十分に頭を使うことができなくなる。こ
れは酷暑の候に仕事がいやになることでわかる。
また、暑いので水分をとると、血液が陰性になって、ますます疲れる。だるくなる。食欲がなくなる。
これが体力を弱めるというように、連鎖的に作用する。というようになってゆくのである。
ところで、自然治癒力と体温の関係はどうなのだろうか。
自然治癒力は、体温が正常の時に最もその力を発揮できるようにできていることは、
神様にお伺いを立てなくともわかる。
ということは、ムリや不摂生で体調を崩したりした時に、
体温が正常で自然治癒力が旺盛ならば、病気にならずに済むし、体調の回復も早い。
病原菌の侵入にも自然治癒力が退治する。
以上のように考えてくると、正常な体温こそ健康維持の基本であることが理解される。
われわれは、あらゆる努力を払って体温を正常にもってゆかなけねばならない。それが健康を守る道である。
それににもかかわらず、人間は、体温を正常に維持することこそ健康のもと。という観念が薄いのである。
特に、食物によって正常な体温を維持する方法の研究をほとんどやっていないという、全く奇妙な現象があるのだ。
その方法は、人体の健康を守るための正食理論の実践が主体であることは誤りないことである。
近時の日本人は、間違った減塩運動により、塩分を控えて身体が陰性化して体調を崩し、
苦しんでいる人が多くなっている。
一億半病人といわれる程病人が多いのも、その主要原因は塩分の摂取不足による体温不足なのである。
人体の陰陽症状
正常な体調を知るためには、どうしたらよいか。その方法は何か、ということになる。
しかし、心配はご無用。体感でわかるからである。
いうまでもなく、健康の時には快適であり、体調不良の時には不快な様々な症状があるからである。
これだけでは、漠然としているので、具体的に列記してみよう。
陽性の人(健康状態)
○血色がよい
○快活
○動作がキビキビしている
○声が大きい
○スタミナがある
○集中力がある
○激しい運動をしても疲れが翌口に残らない
○あまリカゼをひかない
○暑がりで冬に強い
○手の平がいつも乾いている
○冬、冷たい床に入っても十分か十五分で足をフトンの外に出してしまう
○寝つきがよくて熟睡する
○睡眠時間が短い
○朝五時には自然に日が覚めて、その瞬間から頭が正常に回転する
○快食、快便
○小便は冬で一日四〜五回、夏は二〜三回以内
○アルコールに強い
○果物と甘い菓子がきらい
陰性症状(不健康状態) 中陰性くらいまでで、強陰性は除く。
○冷える
身体中冷えるが、特に手足が冷える。つまり冷え性。寒がりで、いつも厚着をしている。
靴下をは いて寝る人もいる。夏には強い。
○疲れる
疲れやすく、スタミナがない。集中力がない。根気が続かない。身体全体がだるい。
長時間立っていられない。
○顔色が悪い
○痛む
原因不明の慢性頭痛。特に午後になるとひどくなる
(レントゲンで調べる。脊髄液を調べる。頭を切開するというようなことをする寸前で、
筆者は卯醤だけで治した例をいくつも持っている)。
肘が痛む。背中が痛む(肉の食べすぎ)。腰痛、下半身が痛む(魚の食べすぎ)。
膝痛。足首が痛む。空腹時に胃が痛む。
○胃ケイレン
○ドライ・アイ
○胸がむかつく
○目が疲れる
目が疲れる。目がかすむ。視力が落ちる。視界が狭くなる。近視、遠視、老眼乱視がすすむ。
○凝る。こわばる。
肩から首筋が凝る。五十肩。膝がこわばって座れない。
こむらがえり(運動中、就寝時、水泳中、ゴルフ中など)。
手の平の一部に固いシコリができて痛む、手指が曲がらない。
○むくむ
下肢がむくむ。顔がむくむ。腹や背中がむくむのは重症・に近い。
○神経痛、リウマチ
○ノイローゼ
○水虫
○下痢
○常習便秘
○出血、下血 (血便)
すぐ鼻血が出る。小さな傷でも血がとまりにくい。歯ぐきから出血する。血便が出る。
○ 皮膚が弱い
すぐかぶれる。皮膚が荒れる。シッシン。化膿し易い。霜焼。赤切れ
○臭い
足が臭い。息が臭い。ワキガ
○虫歯(陽性の人は歯をよく磨かなくとも虫歯にはならない)
○めまい。目ぼたる。立ちくらみ
○貧血、血がうすい。出血がとまりにくい
○食欲不振
○動悸。息切れ
○手足のマヒ。シビレ
○円形脱毛抜け毛。枝毛。ネコ毛
○手の平、足の裏がシメッている
○乗物に酔い易い
○不眠症、寝つきが悪く、眠りが浅い
○朝寝坊 (七時すぎまで寝ていたい人は、強陰性)
○小便の回数が多い
○目がさめても、しばらくはボーッとしていて頭が回転しない
○低体温
○痛風
○心臓肥大
○花粉症
○アトピー性皮膚炎
○白内症
○中耳炎
○蓄膿症
○糖尿病
○痔
○低血圧、不整脈、結滞
○高血圧
○登校拒否、非行
○おもらし
○ボケ
○寝たきり老人
以上にあげた陽性と陰性の体調は、多くの人々が、体感しているものだろう。
これによって、自らの体調が陰性か陽性かを明瞭に知ることができる。
陰性ならば陽性食をとればよい。
で、どんな食物が陽性かということになる。
それを敢えてくれるのが「食物陰陽表」(表2)である。
これは、食物のナトリウムとカリウムの量と比率に基づいて作られたものである。
しかも、これを実際に用いて、その正しいことが確認されている。
何のことはない。ナトリウムの含有量が多くて、カリウムとの比率が高い程陽性が強い。
その反対が陰性の強い食物である。
正食法では、まず人体の陰陽を明らかにし、陰性体質又は陰性病には陽性食をもってバランスをとり、
健康を回複させるのである。また陽性は、もともと健康状態なので、
特別の場合を除き、陰性食をとってバランスをとるということは必要がないのである。
ゆえに、ここでは、陰性の人を対象とした体調調整法だけに限定させていただく。
陰性体を調整する
一.自らの身体の陰陽を確認する
体調調整表 (表4) を見て、本文の体感症状を参帽仙しながら、
該当する症状を、陰性症状又は陽性体調欄に記入してゆく(記入例のように)。
確認欄には、不調は△印、快調は○印を記入する。
陰性症状の多い人でも、一つか二つ陽性体調を持っているという場合があれば、
それは陽性欄に、陽性体調の人でも一部に陰性症状を持っている場合には陰性欄に記入する。
終わったら、陰性症状が多い人は陰性であり、陽性体質が多い人は陽性ということになる。
二、陰陽のバランスを恢復(かいふく)する
陰性の人は、最初に卵醤を三〜五日間一日一個をとる。
これによって、
陰性症状の多くがウソのように消滅してしまうという考えられなかったことをまず体験することになる。
しかし、卵醤は非常食なので、平素は陽性食で身体の陽性を維持するのである。
この際に、筆者がいつもてこずるのは、少し陽性食をとると、
まだ必要量の数分の一しかとらないのに、それ以上とろうとしない人が非常に多いことである。
「塩分のとりすぎ」が頭にこびりついているからである。
まだ手の平がしめっているのに、である。
大切なことは、食物陰陽表を見ながら、
思いきって陽性食をとり、体質をいったん強陽性に変えてしまうことである。
それによって陽性体質が如何に快適なものであるかを知ることである。
次に、陰性食を増やしてみると、途端に快適さが消えてゆくことを体験することである。
この両方を体験して、初めて正食の本当の意味を知ることができるのである。
食事による体調の変化の早さは驚くべきものであり、
食事こそ健康に最も大きな影響を及ぼすことを知ることができる。
こうなれば、あとは簡単、自分で自分の体調を自由にコントロールできるようになる。
そして、体重は身長から百を引き、〇・九をかけた数字を出し、
この数字のプラス・マイナス十%以内で自分が最も快適なものとする。
これで万事オーケーである。といいたいが、これではまだ「正食の正続」ではない。
というのは、正統は玄米≠ナあり、動物質は一切シャツト・アウトしたものだからである。
しかし、正統は初めかなりの抵抗がある。
それはムリからぬことではあるが、難病、奇病に対しては目を見張るような効果がある。
それについては、まずは入門≠ニいうことで、陰陽のバランスを主としたのである。
正統ではなくとも、体調恢復、健康維持には十分な効果がある。
まずやさしいところより始めるわけである。正食入門食″をまず行うことをおすすめする次第である。