支える珈琲 ルーチェ・ソラーレ 夕張は、「人生の案内所」
支える珈琲 ルーチェ・ソラーレ 夕張では、
イタリアのナポリで復活した「保留コーヒー」の精神に感動し、
「支える珈琲」を4月1日より、提供しております。
★「人生の案内所」は、北海道マガジン「カイKAI」安田編集長より
☆南欧危機で「ツケ払い」復活コーヒーで支えあいも グローバルウォッチ
今年の4月、一人の翻訳家Damon Farry氏によって、「保留コーヒー」は、日本で紹介されています。イタリアのナポリで始まった「保留コーヒー」が、今度は、ロンドンのスターバックスで。その取材がきっかけで、夕張のルーチェ・ソラーレは、日経ビジネスオンラインで、取り上げられました。
南欧危機で「ツケ払い」復活 コーヒーで支えあいも グローバルウォッチ
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英国では消費者が積極的にツイッタ―などを通じて、大手コーヒーチェーンに保留コーヒーの導入を求めていた。スターバックスUKがその反響の大きさを受けて、この試みを始めたのは4月下旬。最近、イタリアで復活した保留コーヒーの動きに触発されてのことだ。
今、この保留コーヒーが、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて急速に世界各国に広がっている。既に米国や英国、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、そして日本などで、保留コーヒーのフェイスブック・ページが立ち上がっている。
英国初の導入店は「コーヒー7(セブン)」
5月上旬、英国で初めて「保留コーヒー」を導入したと言われる、ロンドン東部のカフェ「コーヒー7(セブン)」を訪れた。(テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』で23日に放映=「南欧危機で『ツケ払い』復活 コーヒーで支えあいも」)そこはロンドンで2番目に失業率の高い地域で、なじみの客が編み物をしながらゆっくり食事をとるなど、地域住民の憩いの場として人気を集めている。
この店が保留コーヒーを始めたのは3月下旬のこと。価格は1杯2ポンドで、販売開始から4週間ほどで50杯ほどのコーヒーが「保留」された。実際に保留コーヒーを買っていたロイド・ジーンズさんは、元弁護士で、今は年金生活を送っているが、週に1~2杯はコーヒーを見知らぬ誰かのために買うという。月に16ポンド程の出費だ。決して安い金額ではないが、ジーンズさんは「保留コーヒーなら、地域に金が還元されることが保証されており、国際的な慈善団体に寄付するよりも、金の流れが明確で、安心できる」と言う。
一方、コーヒー7の前の路上で露店を営むスティーブ・バニーさんは、最近、何杯かの保留コーヒーを注文した。バニーさんは2年前まで公営住宅の清掃業務に携わっていたが、人員整理で職を失った。突然の失業で明日への希望を失いそうになったが、「保留コーヒーを飲みにこのカフェに来て、馴染み客と話をすることで自尊心を取り戻せた」(バニーさん)。
日本でも、保留コーヒーに賛同する喫茶店がある。北海道夕張市にある「ルーチェ・ソラーレ」だ。4月1日から、保留コーヒーを独自に「支える珈琲」と名付けてスタートした。店を営む笹谷達朗さんは、フェイスブックのページを通じて保留コーヒーの存在を知った。「田舎では、倒れている人がいたら、必ずと言っていいほど声をかけます。それが、日本の田舎です。そんな『田舎の優しさ』を思い出させてくれたページでした」という笹谷さん。
ルーチェ・ソラーレの「支える珈琲」は1杯400円。「支える珈琲」の事を知った客は、気軽にもう1杯分、支払ってくれるという。コーヒー以外にも、「支えるピザ」(1000円)や「支えるおむすび」(200円)も販売している。笹谷さんらの活動は、夕張市が財政破たんの折に受けた様々な支援を、今、助けを必要とする人々に返したいと言う思いから生まれている。
それでは、そもそも保留コーヒーとはどのような経緯で始まったのだろうか。そのルーツを探りに、発祥の地イタリアを訪れた。
イタリア、ナポリの王宮近くで営業するカフェ「ガンブリヌス」は、創業1860年の老舗だ。店を訪れた中年の男性がカウンターでコーヒー代を支払っていた。
「僕にコーヒーを。それと『保留コーヒー』を1つ」
注文を受けた店員は、客用のコーヒー代2ユーロに加え、もう1杯分のコーヒー代2ユーロを客から受け取った。
ナポリで「保留コーヒー」の推進運動を行うマウリッツィオ・デル・ブッファロさんによれば、この伝統は古くは19世紀ごろまでさかのぼるのではないかと言う。少なくとも40年くらい前には、カフェで「保留コーヒー」を注文することは、ごく当たり前の日常的風景だったようだ。
デル・ブッファロさんは「近年、社会の変容に伴って貧困は広がる一方だが、社会の暗部として隠されるようになった。カフェはおしゃれに様変わりし、たった1杯の保留コーヒーを注文することが、いつしか恥だとみなされるようになった」と話す。
彼によれば、ナポリの人にとってのコーヒーとは、シンプルな「連帯の象徴」であり、「人々をつなげ、親密さを生むコミュニケーションの1つ」との位置づけで、誰にでも飲む権利があるものだという。デル・ブッファロさんは、「保留コーヒーは、我々が捨て去ってしまった本来の人間の生きざまを取り戻す試みだ」と強調する。
ナポリの人たちの「連帯」意識は、コーヒーと並んでこの町の人たちに愛されているピザにも見て取れる。いわゆる「ツケ払い」を復活したピッツェリアがあるのだ。
創業1935年で、ナポリで最も人気が高いと言われる「ピッツェリア・ソルビッロ」は、今年4月から「ツケ払い」を受け入れている。きっかけは、「ピザ強奪」事件だ。3月下旬、ナポリ市内の別のピッツェリアで、ピザを購入して店を出てきた客に、武装した覆面の男が銃を突きつけた。盗んだのは財布でも携帯でもなく、4枚のピザ。犯人は「これで、子供が食べ物にありつける」と言い残したという。
この事件に心を痛めたピッツェリア・ソルビッロのオーナー、ジーノ・ソルビッロさんは、ナポリで1930~50年代ごろ慣習として根付いていた「ツケ払い」を復活させた。支払いは、8日後で構わないというものだ。ツケで買えるのは1人1枚、トマトとモッツアレラチーズを乗せただけのマルゲリータなどシンプルなピザだけ。価格は3ユーロだが、それでも直径40cm近くあり、大人1人が十分に満足するサイズだ。
開始から5週間ほどで約30枚のピザをツケ払いで売ったが、未払いのピザはわずか2枚だけ。「金が戻ってこなかったらどうするかって?次回から、その人にはもう売らない。それだけのことさ」というソルビッロさんは話す。「国の現状がナポリに悲劇を招いているが、人々にはピザを食べる権利がある」と言う。イタリアが直面している経済危機は深刻だ。ユーロ圏3位の経済大国だが、長引く不況で、いわゆる「(ユーロ)危機自殺」も社会問題化している。去年3月には、生活苦から男性2人が相次いで焼身自殺を図った。4月下旬には、首相府前で拳銃をもった男が警察官らに発砲し、1人が首を撃たれ重傷を負うという事件も起きた。地元紙などの報道によれば、犯人は国内でも貧困率の高い南部カラブリア出身の49歳の男。失業で自暴自棄になり発砲したという。
保留コーヒーもピザのツケ払いも、必ずしもビジネスに直結するわけではない。しかし、1杯のコーヒーや1枚のピザで、自殺や強盗など、経済危機を発端とした「負の連鎖」を未然に防ぐことができるのなら、立派な地域経済への貢献になる。さらに、本来であれば代金を支払えずに商品を買えなかった人の分まで販売できるのであれば、不況により多くの店で売り上げが落ち込む中で店側も助かり、ビジネスとしても導入しやすい。
保留コーヒーという善意の連帯を作り出すイタリアの知恵は、単なるチャリティーという枠組みを越えて、ビジネスの視点で見ても意外に合理的なものなのかもしれない。CSR(企業の社会的責任)が叫ばれて久しいが、顧客も主体的に関われるシンプルな仕組みであるという点で、保留コーヒーの試みはユニークとも言える。それを考えれば、今後、こういった仕組みが世界的に広がりを見せることもあるかもしれない。