「正食と人体」第五章 一倉定著 

塩こそは生命のもとぞ その昔 生命海から生まれたり

人々は塩のことをよく知らない

塩うすき食物とれば全身の
        栄養失調おこすこわさよ

今回は、新陳代謝を正常にする食箋をご紹介します。この食箋は、心臓疾患、脳出血等の成人病を予防する準正食ともいうべきもので、
人体生理を究明する東洋医学に基づいたものです。  一倉経営研究所所長 一倉 定
栄養失調は塩不足から(実は塩分濃度不足)
 栄養失調は塩不足から起こる。
ということは、前節で説明したので、あなたは既にご存じであるが、
これは説明の都合上、理解しやすいために塩不足≠ニ申し上げたのであって、
正確には塩分濃度の不足≠フことである。
 新陳代謝の効率は、細胞外液の塩分濃度が生理的に過当なときが最もよろしい。
その塩分濃度は、0.85%だから、
この血液がリンパ液−つまり細胞外液となるのだから、
0.85%かどうかわからないが、この付近であることは間違いないのではないか。
 塩分は十分にとっても、水をたくさん飲むと、血中塩分濃度は下がってしまうために、
これまた新陳代謝不良を起こすのである。
これがわからないために、とんでもない間違いを犯してしまった。それは次のことである。
水飲み健康法の誤り
 「水を毎朝多量に飲むと全身が洗われて健康に良い」という趣旨である。
 これは人間の生理をまったく知らない妄説である
(健康法と称するものには、これだけでなく、たくさんの妄説があり、これらを提唱する人が、
自分自身の人体実験で検証したら、その誤りに気が付くはずであるが、これをやらない無責任な者が多い。
そのために、筆者はいちいち訂正しなければならず、本筋からそれてしまうが、
事が健康、いや人命に関するかもしれないだけに知らんふりをするわけにいかず、
筆の進みが遅れてしまうことをご了承願いたいのである)。
 
人間の体は、水を飲んでも洗濯物ではあるまいに、洗われるようにはできてはいないのである。
 水を多量に飲めば、血液濃度を薄めて、たちまち新陳代謝に支障を来し、細胞は飢紙状態になってしまう。
 論より証拠、レスリングやボクシング、野球の場合にはピッチャー 
その他にもまだあるが、試合中は絶対に水を飲まないのは、だれでも知っている。
水を飲んだらたちまち力が抜けてしまうからである。
 マラソンなどは途中で水を飲むが、これは超ハードなゲームなので、
汗とともに水分が多量に抜けて脱水状態になるからである。
水分をとるのはいいが、水の中にレモンや蜂蜜を入れるのはまったくの誤り、
これらのものは酸性で体の中の塩分(アルカリ性)濃度を中和によって薄めてしまう。
それだけではない。
朝食にパンをとるのも、やはり血中塩分濃度を薄めてしまうのある。
同じく酸とアルカリである。
多くの人々は、それほど人体を知らず、誤った食事や飲み物をとっているのである。
 では、どんな食事がいいか、ということになるが、それは後述させていただくとして、
とりあえずは濃いミソ汁とゴマ塩(ゴマ8に自然塩2くらい)をタップリとり、
水分と果物と甘いものを控えると、体調が大きく変わることが自覚できます。
 
 筆者の友人の話だが、その友人の小学校の先生が水飲み健康法の信者で、
毎日一升の水を飲み、二の人は五十三歳で死んでしまった。
解剖の結果は、内臓がグズグズに崩れたようになっていたという話を聞いている。
 また、大手術後は患者に水を飲ませない。
水を飲むと血管の細胞が緩み、出血する恐れがあるからだ。
患者は猛烈なのどの渇きに数時間耐えなければならない。
傷口を早くふさぐだけでなく、回復を早めるからである。
それは濃い血液の強い生命力のためだ。
熱帯人の動作はなぜのろいのか  (一倉仮説)
 それは、怠け者だからではない。
人間の体温は脇の下で三十六〜三十七度が正常で、それより高くとも低くとも体調が崩れる。
 酷熱のために、どうしても体温が高くなり過ぎる。
そこで、発熱体である塩を汗として体外に出す。
汗で不足した体内の水分は水を飲んで補う。
同時に体内の塩分を薄くする。
 こうして体温を正常に保つのだが、血中塩分濃度が薄くなっているために新陳代謝は衰えて、
細胞の力も弱くなり、動作がのろくなるのである。
 速い動作などできるものではないし、そんなことをしたら体を悪くしてしまうのである。
また熱帯人の食事の特色として果物が多い。果物は体を冷やすからだ。

 日本(だけでなく温帯地方すべて)には夏バテがある。
 夏のうちは、その気温に適応して体中塩分が薄くなっているのが、
秋になって気温が下がると、夏型の体では、これに対応できず、夏バテという現象が起こるのである。
塩分をタップリとれば体調は回復する。
 日本のように、四季によって気温の高低がかなりある地方では、
一定の体温維持のためには、塩分と衣服、布団などをそれに応じて増減する必要があるのだ。
衣服や布団を変えることは誤りないのだが、
塩分調節も、これらと同様に重要であることを忘れてはならないのである。
高血圧も低血圧も原因はともに塩不足  (一倉仮説)
 T社にお伺いしたある日、T社長は
「一倉さん、きょうはコンサルティングでなく、
高血圧で悩んでいる社員一人と低血圧で苦しんでいる社員一人を治してやってください」と
いうご依頼である。おまけに、高血圧の社員は弁膜″の一部が欠落しているということである。
 筆者は、この二人にまったく同じ食箋を差し上げた。二人とも治ってしまった。
 「そんなバカなことがあるか、まったく反対の病気に同じ食箋とは……」とお思いの方も多いと思われるが、
間違いではない。それは、次のような理由がある。
高血圧
 高血圧の原因は、その大部分は本態性高血圧″といわれているものである。
本態性、特発性、アトピー性≠ニいうのは、原因不明という意味と思えばよい。
つまり、現代医学ではまだ高血圧の原因はよくわかっていないのである。
 高血圧の原因は、肉食過多、精白米食による血液の酸性化である。
 人間の血液は、酸性になると暗赤色の粘っこい状態となり、毛細血管の中に流れこみにくくなる。
そのために心臓の圧力を高めて毛細血管の中に血液を送り込んでいる状態が高血圧である。
 酸性の血液をアルカリ性にするには強アルカリである塩をとればよい。
これで鮮紅色でサラサラの血液となり、毛細血管に血液を送り込むのに高血圧を必要としなくなる。
だから血圧が下がるのである。その実例は既に紹介済みである。
 通説では、塩をとると毛細血管が締まり、血圧が高くなるというものだが、これは誤りである。
 血液が酸性になると、自然治癒力は血液をアルカリ性にするために、
血液中の酸性物質であるコレステロールや中性脂肪を取り除こうとする。
それには血液に接している血管が最適なので、血管壁でこれらのものを除去する。
これが血管の内壁について血管の内径を小さくするだけでなく、
血管壁に付いたコレステロールや中性脂肪は血管の弾力性を奪ってしまう。
これが血管の老化といわれている現象である。
血管の老化現象は、酸性血液の正常化の代償なのである。
 汚れた水の流れる川の内壁や底には、汚ない藻のようなものが生えるが、
これが汚れた水を浄化している。
これと人間の血管の中で行われている浄化作用と、よく似ている。これも自然浄化力である。
 酸性血液が塩をとることによってアルカリ性になると、
この血液が血管内壁についているコレステロールや中性脂肪という酸性物質と中和して洗い去り、
血管内部の掃除をする。
そして、血管の弾力性の回復が行われる。
 そのために、下の血圧≠ェ下がる。
この現象は、私が高血圧を治して差し上げた多くの人々に、ただ一人の例外もなく見られた、
という実例を持っている。
 かくいう私も、かつては一六〇−八〇もあった血圧が、一三五−六五という超健康の状態になっているのである。
血液をアルカリ性にすれば万事オーケー 脳出血など、どこの国の病気か、ということになるのである
低血圧  (一倉仮説)
 低血圧の原因は、水、果物、甘いもの、生野菜を多くとっている人に起こる症状である。
あなたの周囲に、もしも低血圧者がいたら、この点を確かめてみたらわかります。
 果物にはカリウム、クエン酸、果糖、ビタミンC。
 甘いものには蕉糖、生野菜にはカリウム、ビタミンC、などが含まれており、
すべて筋肉の力を弱めるという特性を持っている。
 とくに、カリウムはこの力が強い。
平成四年に東海大学病院で起こった尊厳死問題では、
若い医師が患者に塩化カリウム≠注射して死亡させた。
 カリウムには毒性はない。
だから、減塩醤油の主要成分の一つになっているではないか。
毒性のない塩化カリウムを注射してなぜ死ぬかというと、
カリウムは筋肉(つまりタンパク質)を緩めてしまうという特性を持っている。
そのために筋肉を締める力がなくなってしまう。
つまり心臓が止まってしまうからである。
その証拠に、死因は心不全≠ニ発表されたではないか。
 それだけではない。呼吸筋も止まってしまう。
しかも呼吸筋は心臓の筋肉よりもカリウムや水に弱いのである。
だから、点滴をやり過ぎると呼吸困難になることは、多くの人々が知っていることである。
塩分補給で治る。
 果糖と蕉糖は同類であって、
ともに酸性のために血中塩分を中和して全身的な栄養失調を起こす元凶である。
これも筋肉の力を弱める物質である。ビタミンCも筋肉を緩める。
 どうだろうか、筋肉を緩めてしまう食物の集合ではないか。
これらのものが筋肉の力を弱めてしまうために低血圧となるのである。
 低血圧は心臓の血液圧送力を弱めて全身の血行不良を起こす。
すると、自然治癒力は心臓の筋肉を増大させる。
力が弱いのだから、筋肉を大きくして力を増すためである。
これが心臓肥大≠ニいう現象である。
近ごろ日本人に心臓肥大が多くなったのは塩不足による心臓の力が弱くなったからである。
 さらに、この状態が進むと、今度は老廃物の除去に支障を来す。
老廃物が体の中に多くなっていくと、老廃物の害が生まれる。
すると、自然治癒力は、体に最も害を及ばす危険の少ないところに、この毒を放出する。
これが痛風である。
 毒とは尿酸であり、安全なところ、とは筋肉の中である。
 だから、痛風は最も血行の悪い個所−心臓から最も遠いところー右足の親指の腹から痛くなるのである。
絶対に左足から痛くならないのはこうした理由によるものである。
 だから、痛風は卵醤を飲むといとも簡単に治ってしまうのは、既に紹介した通りである。
 以上が、高血圧、低血圧ともまったく同じ塩分不足で起こるのであるという説明である。
違うのは平素の食物の違いのために、体質が違ってしまっているからである。
 だから、高血圧や低血圧に関連して起こる病気や症状
−−−心臓肥大、心不全、心筋梗塞、心臓弁膜症、その他心臓の先天的疾患以外のすべての心臓病、
脳梗塞なども、まったく同じ食事で治ってしまうのである。
 そして、先天的疾患というのは、
心臓病に限らずすべて母親の食事の誤りによる全身的栄養失調が原因なのである。
 親の食事の誤りは、このように本人だけでなく、子、孫にまで不幸をもたらすものであることを、
よくよく心得ておいていただきたいのである。
では、この辺で、循環器系のすべての病気の共通食箋を紹介させていただく
循環器系統病の共通食箋
一、水分は極力控える。
  (水分は血液を薄めてしまうので、水分をとり過ぎていては、
   いかなる食事もその効力の大部分を失ってしまう。
   水分をとらないことこそ、正食の大前提である。ただし夏はあまり控えない)。
二、果物、甘いもの、生野菜、酢はまったくとらないのが理想。
  (これも、すべての食事に共通な大前提である)。
三、良質な自然塩を使った卵醤(緊急時のみ) ミソ汁、ゴマ塩(ゴマ8対塩2くらい)
   たくあん、梅干し、ミソ漬け(以上の三つは、消化酵素の宝庫である) を十分にとる。
四、主食は、精白米だけを長期にとってはいけない。
  精白米には、その30%を五分づきの押麦、アワ、ヒエ、キビなどの雑穀類を混ぜて食べる。
  また、五分づき、七分づき、胚芽米などは単独でとってもよいが、
  やはり押麦や雑穀類を混ぜたほうがよい 
 (玄米なら理想的だが、長期に続ける場合は一日三食のうち二食とし、一食は、米飯、ソパ、
   ウドン、パンなどとする)。
五、動物質は、とらないのが理想だが、少量または時々は差し支えない。
   ただし、重病の場合は不可。
六、アルコールは、飲まないのが理想だが、少量なら差し支えない。
   大量に飲んだときには中和食として、
   日本酒一合、またはど−ル大瓶一本につき、濃いミソ汁を平素の食事とは別にコーヒーカップ二林をとる。
七、煙草は過ぎなければ差し支えない。適量以下ならばがんの原因にならない。
  というものである。ただし、これは健康人のもので、病人食ではない。
  病人食ではないが、これを病人に与えても、病院で出す食事よりはるかに優れたものである。
 また、これは循環器系統のものであるとはいえ、他の病気にも安心して適用できるものである。
準正食″といってもよいものである。
糖尿病
 糖尿病の原因については多くの説がある。
◎「糖尿病の最大の原因は肥満である」という肥満説
◎「糖尿病の原因はインシェリンの作用不足である」というインシュリン作用不足説
◎「脂肪と砂糖の増加、センイ質の減少」という複合原因説
◎「糖尿病は原因があっても、それだけでは発病しない。
  遺伝的な素質のある人だけが発病する」という遺伝説
 (日本人の23%が遺伝説的素質を持っている、という説もある)
 右の諸説は一応もっともであることは間違いない。しかし、いずれの説も肝心なことに触れていない、
 というのが一倉仮説が生まれた理由である。
 
現代栄養学では、澱粉質の解釈が間違っている。
もう一つ、糖尿病に起こる合併症≠ノついての原因探究が空白になっている。
その上、「糖尿病は不治の病である」という、とんでもない妄説がある。冗談じゃない。
筆者の手掛けた糖尿病患者は全員しかも極めて短期間一〜二週間)で治っている。
「糖尿病は最も治りやすい病気の一つである」というのが東洋医学の見解である。
 
まず第一が澱粉質〔含水炭素)には白砂糖(蕉糖)のような低分子炭化物と、
ブドウ糖のような高分子炭化物と二種類あり、それぞれの特性が大きく違って、
澱粉賓と一括するのは明らかにおかしい。
糖尿病の原因になるのは低分子の蕉糖であって、高分子のブドウ糖は糖尿病とまったく無縁の物質である。
論より証拠、東洋医学では糖尿病患者に玄米を食べさせるが、糖尿病ほ短期間で治ってゆく。
害があるのは蕉糖と、これの仲間である果糖だけである。
「白米は握りずし二つの分量が限度」というのは明らかに間違いである。
 蕉糖の化学構造式は、麻薬の王様といわれているヘロインと非常によく似ていて、どちらも白くて甘い。
毒性は、ヘロインは強くて激しいが、白砂糖はジワリジワリと人体を蝕むのである。
それだけに、なお怖いのである。 
その強い酸性は血液を酸性化し、塩分濃度を薄めるために新陳代謝障害と高血圧または低血圧を誘う。
その作用は強くて速い。純粋物質だからだ。
 これは、化学肥料という純粋物質が速効性を持っているのと同様である。
純粋物質は自然界に存在しないので、人体はこれに対応する機能を備えていないからである。
 その白砂糖を、毎日多量に食べていると、血液は強度の糖分過多となり、
これを中和するために膵蔵のランゲルハンス島からインシュリンを多量に出して中和を行う。
 これが続くと、ランゲルハンス島の機能が過労でダウンしてインシュリンを作れなくなってしまう。
 そのために、血中糖分は過多となり、これが血液中の塩分を中和して極度の塩分不足を起こし、
これが強度の新陳代謝障害を起こして、全身の栄養失調を起こし、全身衰弱が進んでゆく。
そのために、セックス不能に陥るだけでなく、弱い部分から次々に病になってゆく。
これが合併症である。
そして、ついには死を迎えるのである。
 
だから、糖尿病の治療には、何をおいても白砂糖、果物、甘いもの、生野菜を絶ち、
塩分を多量に補給して血中塩分濃度を高め新陳代謝機能の回復を行うのである。
これは、極めて短期間に急速な回復を見せる。
糖尿病の治りが早いのは驚くべきものである。
偉大なるかな自然治癒力よ、である。
 糖尿病の治療は、白砂糖を絶ち、塩分を十分にとるほかに、
それらの動きを強めるために青野菜(血中塩分を薄める)、
動物質を絶ち、玄米という最良質の食物をとる。
さらにランゲルハンス島の機能回復のために、
三種類の特効食「小豆、カボチャ、昆布」を毎日三種合計でお椀に一〜二杯くらいとる。
味付けは塩味であるのはいうまでもない。
以上、高血圧、低血圧を治す段階で心臓疾患が治り、脳出血の防止ができ、四大成人病のうち、
二つが片付いてしまう。
残りはがんと糖尿病ということになる。
がんと糖尿病の食箋については改めて述べるが、基本的には右と同じである。
それだけではない。人間のすべての病気に適用できる食箋である。
新陳代謝を正常にする食箋だからである。
 読者諸賢は、筆者のこの記事を読まれて、
自分の目を疑うどころか、世界中の人々が悩みに悩んでいる難病中の難病が、
こんなにアッケなく治るなんて信じられない、と感ぜられると思う。
 しかし、これは紛れもなく、筆者自身だけでなく、
多くの東洋医学の指導者が、常に体験している事実である。
筆者は、ウソやィツワリをいっているのではないのである。
 この事実は、新陳代謝というものが、
いかに決定的な重要度を持っているかということを教えてくれるものである。
 それにもかかわらず、多くの専門家は、新陳代謝にあまり関心を示さないのは、
どうしたことなのだろうか。
 部分生理にいくら関心を示しても、人体生理を忘れていたのでは、そこから何も生まれてはこないのである。