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「正食と人体」第1章 一倉定著 

塩こそは生命のもとぞ その昔 生命海から生まれたり

人々は塩のことをよく知らない

「塩をとるな血圧が上がりますよ」
「減塩しなさい」
「塩分控えめに」という
減塩キヤンペーンの大合唱である。
塩はまったくの悪ものにされてしまっている。
そのために、日本人の健康は
メナャメチャになってしまっているのだ。
そんなに悪い塩を、何故危篤の病人に注射をするのか。
それはりンゲル液で、約一%の塩水−つまり塩化ナトリウムの溶液に、
少量の塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを加えた液である。
この液で、まさに生命の灯が消えようとしている重病人が救われるのである。
これでも、塩は体に悪いというのだろうか。
重病人によくて、健康の人に悪いものがあるはずがない。
人間の血液中には、0.85%の塩分が含まれている。
PH(ペーハーといって、わかりやすくいえば、酸性・アルカリ性の度合いを表す数値。
「七」が中性、「七」より低いと酸性。高ければアルカリ性である)は
七・四の弱アルカリ性である。
そのアルカリ性とは塩の濃度で決まってくるのである。

また、羊水は塩水である。太古の海水とそっくりだという。
この塩水の中で胎児が育つのである。
生命を次の代に引き継ぐ胎児は、最高の環境の中で育てられる筈だ。
それが塩水なのである。
右の二つの事実は、塩こそ生命の源である証拠である。
ナトリウムは、百ほどある元素の中で、
最も活性の強い元素で、体内で原子転換を行いながら、
変幻自在に数えきれないほどの物質を作り出すことができる。


ルイ・ケルプラン (フランス国立栄養研究所長をしたことがある。故人)の二冊の著書
『生体による原子転換』 『自然の中の原子転換』には、多くの実例が紹介されている。
 だからこそ塩は、生命の発生に重大な役割を果たし、生命機能の基本的な役割を演じているのである。
これについては後述する。
 石塚左玄の「ナトリウム・カリウムの括抗性こそ食養の基本」という理論も生理の根本を論じているのである。

 上杉謙信が、武田信玄に塩を送った話はだれでも知っている。
塩止めをされたのも、塩を送ったのも、すべて「塩は生命のもと」だからである。
建部清庵は、「キキンの時に人が死ぬのは食物が足りないだけでなく、
塩をとれずにいるところへ、山野の草根木葉を食べるためである」という意味のことを述べている。
卓見である。

これほど重要な「生命の源」を、
「塩を控えよ」という誤った理論のために控えて健康を害しているのである。
何とあほらしいことではないか。
 そこで、塩と人体について正しい認識を持ってもらうために、
まず塩に関する三つの妄説が、
どう間違っているのかを述べることとする。
1.「塩は血圧を上げる」という妄説
 高血圧と塩分との関係を最初に論じたのは、
一九〇四年、アメリカのポンジャド博士の「高血圧に減塩寮法を行って効果があった」
というレポートだといわれているが、これは、あまり問題にされなかった。
 戦後、アメリカのタール博士による日本の都道府県別食塩摂取量と高血圧の発生率を調べた結果、
「高血圧は塩分のトり過ぎが原因」という、早とちりであった。
 ところが、後にもっと詳しく部落別に分けて調べたところ、
塩分摂取量が多くても高血圧にならない部落が多く存在するとともに、
塩分摂取量が少ない部落でも高血圧部落が多いことがわかり、食物との関係を調べ直した結果、
白米食が高血圧の犯人だということがわかったが、既存の説を覆すことはできなかった。
先入観念のなせる業だろうか。
 最も有名なのは、1953年、アメリカのメーネリー博士の行った実験である。
実験用のネズミ十匹に、通常の二十倍の食塩を加えたものを食べさせ、
ノドが渇いて飲む水は一%の食塩を加えたものとした。
一%というのは、ネズミの血液中の塩分浪度に近いものである。
 六か月後に、十匹のうち四匹が高血圧になっていた。
この実験は大きな反響を呼び起こし、塩は高血圧の原因として敬遠されるようになったのである。
一犬が虚にほえて万犬がそれを伝えたのだ。
 何と妙な話ではないか。血圧の上がった四匹のことだけが問題視され、
血圧の上がらなかった六匹はまったく無視されてしまったのである。
 こうした細工が、どこで行われたか知らないが、
そのために「塩をとると血圧が上がる」ということになってしまったのである。
インチキ極まる話ではないか。
 これとは別に、私には実験そのものに、いろいろな疑問が生まれてくるのである。
 通常の二十倍の塩というのを、人間に当てほめてみると、一日10gが通常だとしても、
その二十倍だから、200gということになる。

 こんなに多量の塩分を、六か月どころか一日でもとれるものではない。
もしも100gずつ二日もとれば、三日目には欲にも得にも体が受けつけない。
無理にとれば吐いてしまう。
これは、後述する私の塩の過剰摂取の人体実験からして間違いない。
生物体とはこういうものである。
 神の与えたもうた自然治癒力は身体防衛力を持っており、
こんなベラぼうなことを絶対に受けつけないからだ。
 だから、この実験にはどこかに何かのウソかカラクリがある。
 もしも、これが本当ならば、ネズミは人間とは違った生理を持っていることになる。
すると、こうしたネズミを実験に使っても、人間には適用できないということになってしまう。
 このパラドックスを、どう解けというのだろうか。
 私の行った多くの実験では、自然塩をとると、血圧は見事に、しかも急速に下がってゆく。
例外は一つもない。
 自然塩は高血圧を下げるだけでなく、低血圧は上昇して正常血圧になる。
 この、一見不可解な現象も、人体生理を理解していれば不可解でも何でもなく、
当たり前のことなのである。
このことは後にもう一度触れることとする。
 
ところが、精製塩(塩化ナトリウムの純度が99.5%のもので、食卓塩がこれである)をとると血圧が上がる。
多くの人が体験していることである。
これは、精製塩というのは食物ではなくて有害な薬品≠セということである。
 人間が普通とっている食物には、純粋なものは一つもない。
こうした食物に順応してできている体には、自然界にない純粋な物質をとっても、体にはそれに順応する力がない。
きまぎまな副作用が起こる。
その一つが高血圧である。精製塩は毒物なのである。
 余談だが、純水や純酸素は赤血球を分解してしまう。
純粋なものは、いかなるものでも人体に対しては毒性を持っているのである。
二、WHO(世界保険機構)の「塩分は一日4〜5gという指導の誤り
 アメリカのM委員会(アメリカ上院栄養問題特別委員食、委員長が大物議員マクガパンなので、
略称をM委員会といっている)の指導のごときは、
さらに少なく、「一日三g」という指導を行っている。
 これは、明らかに間違っている。
というのは、これは「調味料の量」を指しているのだが、
塩というものは、調味料だけから摂取しているのではない。
食物の中には必ず塩分つまりナトリウムが含まれている。
それをまったく無視しているからだ。

 (A表)ナトリウムとカリウム含有表を参照していただきたい。
植物性食品と動物性食品では、ナトリウム(カリウムも)の含有量が大きく違う。
 狩猟民族(欧米人)は肉食だから、食物自体の中からかなりの量の塩分をとっている。
ロースハムやベーコンの好きな人と嫌いな人では、随分塩分の摂取量が違う。

 それに対して農耕民族(日本人、アジア人、アフリカ人)は
肉食人種から見ると肉や魚を食べる量が少ないから、塩分摂取量の不足を来す。
だから、その不足分をミソ、曹抽、塩漬けなどで補っている。
日本人以外の人種は塩分の多い調味料や塩漬けはあまり使っていないのはそのためである。
日本人でも肉や魚介類を好む人とあまり好まない人がいる。
 
つまり、塩分というのは、ところにより個人によって食物から摂取する塩分の量が大きく違う。
それを、調味料だけ一日10gというような指導をするのは間違っているのだ。
 こんな大切なことが間違っているのだから、
指導を受ける人がこれを真に受けて減塩げんえん≠ニいっている。
一般大衆は大迷惑である。このために、いかに多くの人が健康を害しているかを考えると、
背筋が寒くなる思いである。
 
では、塩分の正しいとり方は何を基準にしたらいいか、ということになる。
個人差があるのだから、厄介である、と心配する必要はない。
それは、自然治癒力にすべてを任せろ一つまり神のご意志に従えばよい。
 自然治癒力の指令によって、自律神経が精妙無比なコントロールを行っているのだから、
すべてをこれに任せたらよい。
それは、自分の好みの塩味で食べたいだけ食べるという最も易しい方法である。
人間の浅知恵などまったく不要なのである。
 といっても、いままで塩とるなのキャンペーンによって自己催眠にかかっているかもしれないから、
一度、いや2から3度、食後にノドが渇くくらいにまで塩分をとるとよい。
ノドが渇けば水を飲めばいいのだ。
また、つい食べ過ぎて塩分の過剰摂取でノドが渇いたときも、水を飲めばよいのだ。
 
ところで塩について知っておかなければならない大切なことがある。
塩をそのままとったのでは、血管から細胞に塩が入りにくい、
動物は鉱物を消化する能力を持っていないか、持っていても極めて弱いからである。
鉱物を消化できるのは植物である。
つまり効率が悪いので、食物と同時にとるか、薄味にして飲んでもらいたいのである
三、塩分をとり過ぎることは不可能である
 「塩分をとり過ぎないように」という指導が一般に行われているが、
こういう人は本当にとり過ぎが起こるかどうかの人体実験をしていない人である。
無責任ではないだろうか。
 そのために、どれだけ多くの人々が、とり過ぎを恐れて塩分不足を起こしているかわからない。
 塩分をとり過ぎることは、事実上不可能なのだ。例を挙げて説明しよう。
 
K社長の奥さまは、手首の内側からひじにかけてはれものができて、
医者に診てもらったら手術をしなければタメだといわれた。
奥さまは手術が大嫌いなので困っていた。
 K社長は、私の話で知っていた卵醤=i生卵に醤油を加えたもの・後述)を奥さまに飲ませた。
「三日以上は続けないように」という私の注意はご存じだったが、構わずに毎日一個とり続けさせた。
 奥さまは嫌がるのだが、無理に飲ませた。
そして七日目、欲にも得にも体が受け付けないのに、強制的に飲ませた。
目をつむり、息を止めて飲んだところ、ガバッと吐いてしまった。
自律神経のなせる業である。
 もう、塩分は十分とったので、これ以上飲んだら体に悪いから吐いてしまったのである。
 K社長は、体調調整のため卵醤を毎日一個ずつ飲み続けたが、六日目ごろからは、
卵醤を入れた器を口に近づけると、「ムッ」と醤油のにおいがして胸が悪くなり、
どうしても飲めなくなってしまったという。
三日ほど休んで一個飲んだが、その翌日は我慢にも飲めなかったという。
 私自身の実験もある。辛口醤油を小型のコップに半分ほど入れて水で倍に薄めて一気に飲んでみた。
塩分は10〜15g程度であろう。
すると、胸がむかつき、ガバッと醤油を吐いてしまった。
 次には醤油の量を前回の半量ほどに減らして飲んでみた。
今度は吐かなかったが、五分ほどたつと、猛烈な下痢が始まった。
五分間に数回の下痢で終わり、あとは何事もなかったような状態になってしまった。
 M社長も、右の私とほとんど同じような実験をやって、
同じように下痢をし、あとは何ともなくなってしまったという。
 別の実験として、汁も莱も漬物もやや塩辛くしたり、醤油をかけたりして、
徐々に塩分過剰摂取の状態にもっていった。
ノドが渇くので、水を飲むが、それも少量で止めた。
 二週間ほどたったころ無性に果物や甘いものが欲しくなってきた。
どちらも塩分中和食である。
結果が出たのでこの実験は中止した。
 H氏は、堂々たる体格の偉丈夫である。
豪快に食べ、豪快に飲む。嫌いなのが甘いものと果物である。
そのH氏は、時々やたらに生野菜が食べたくなり、二〜三日はもりもり食べ続けると、
ピタリと生野菜を食べなくなって、また豪快食に戻るという。
生野菜は過剰塩分中和食である。
Y氏も頑健そのもので病気とはまったく無縁である。
H氏とまったく同様なことを私に話してくれた。
 右の程度の実験では、決して十分とはいえないが、過剰塩分をとることは不可能であり、
徐々に塩分過剰にもっていっても、ある限界に達すると、塩分中和食をとりたくなるということがいえよう。
 いずれの場合でも、自律神経の働きによって過剰塩分防止や中和作用が行われるのだ。
 これは、神の摂理で、生物の生命や健康を守り、
維持するための自然治癒力という防衛システムを与えてくださっている証拠である。
 なんとありがたい神のご意志であろうか。
われわれは、謙虚な気持ちと感謝の心で、このお恵みを頂くべきではないだろうか。
 卵 醤
 卵醤というのは、読んで字のごとし、生卵にタップリと辛口醤油を混ぜたもので、
塩分の緊急補充に使うものである。
 処方は、有精卵(手に入らない場合は無精卵でもいたし方ない)一個を器にとる。
この場合は、黄味も白味も全部、黄味に白いひも状のものがあるが、それも取り去らない。
文字通り全部である。
「正食」の基本条件は、「いかなる食物であっても全体食≠ナなければならない」というのがある。
だから、全体食のできない大型の魚は失格で、頭から尻尾まで全部食べられる小魚
 −いわし、ししやも、どじょう、じやこ (煮干しのこと)などがよい。
 この生卵に、殻の片方になみなみいっぱいの辛口曹油を加えたもので、これをかき混ぜて飲む。
 醤油の中の塩分は、大型卵で四〜五g、こぶりの卵で三g程度である。
リンゲル液に換算すると、300CC〜500CCである。
それほど強力である。
食前、食中、食後、食間いつ飲んでもよい。
 まれに吐いてしまう人がいるが、このときは二回に分けて飲む。
食中だと吐くようなことはない。
 用法は一日一個(非常の場合だけ一日二個または一度に二個まではよい)として、
三日か四日続けたらいったん中止して、一週間後くらいから、
一日一個で二〜三日続けたら中止する。
それ以後は、一週間に一個程度とする。
これは、食物により、本人の体質により個人差があるから、
どのくらいの間隔で飲んだらいいかは、自分で見つけること。
毎月一日から三日まで一個ずつ飲み、あとは翌月まで飲まない、という人もいる。
 子供に飲ませるときには、大人との体重比の量とする。
また、嫌がる場合は醤油の量を半分くらい(にしなくとも差し支えない)にして卵焼きとして分食させる手がある。
 塩分が十分に体にゆきわたると、卵醤を飲みたくなくなるから、このときは飲む必要はない。
すべて自然治癒力に任せることが正しい。
 特別に塩分不足の人や、卵がこぶりの場合には、五日でも七日でも連続して飲んでよい
そのうちに飲みたくなくなるから、そのとき中止すればよい。無理に飲み続けてはいけない。
また、生卵をご飯にかけて食べるのは、日本人の発明した健康食の傑作である。
醤油の量は本人の好みでよい。そして食べ続ければよい。
 これだけで、体調はまったく変わってしまい、体はポカポカして気持ちがよい。
冷え症なんかは、どこかへ飛んでしまう。
不思議なくらい疲れなくなって、夜は寝つきがよくなって熟睡し、
朝は六時ごろ(五時ごろになったらなおよい)には自然に日が覚める。
 塩とって目覚め爽やか今朝の空=@という気分を味わうことになる。
寝起きが悪いのは塩分不足の証拠である。
決して体質ではない。
そして、朝型人間と夜型の両方兼備となる。
「朝起きた時に、三十分〜一時間は頭が十分に目覚めていないから云々」という説は間違い。
これは塩分不足の人だけのことである。
塩分十分なら目覚めた瞬間に頭も同時に覚めて、クルクル回転することを実感することができる。
熟睡するからである。
 スタミナは十分になり、朝の通勤ラッシュにもまれても平気の平左である。
だいたい朝の通勤に一時間や二時間立ちっ放しで、
押し合いへし合いをして疲れてしまうなんてのがどうかしているのだ。
塩分十分ならば、こんなことは絶対にあり得ないことである。
 過労死なんてのは典型的な塩分不足で、塩分十分ならば、
過労死したくとも、その望みは絶対にかなえることはできない。
その理由は後述する。
 また、会社ストレス症候群≠ニいわれているさまざまな症候がある。
出社拒否症、出向拒否症、帰宅恐怖症、管理職症候群、海外勤務症候群、人事異動症候群など
後から後から生まれてくる。
何というひ弱″な症候群だろうか。これでは会社勤めなどできないではないか。
 このような症候群をハネ返すのは、塩分を十分にとる以外にはあり得ない。
ウソだと思ったら、塩分をモリモリとってみてください。
塩分とり過ぎは絶対に起こらないのだから。
安心して十分な塩分をとってください。

 そこで一つ、老婆心(?) から申しあげておきたいことがある。
 それは、「塩」と私が書いているのは、
専売局の食卓塩は塩でなくて化学薬品だから論外として、
生理作用としての「塩」と、食物としての「塩」との違いについてである。
 生理作用の塩とは「塩化ナトリウム」という元素のことであるが、
食物としての「塩」というのは食物中の塩と調味料としての塩の合計である。
 その自然塩のとり方であるが、
先にも述べたようにこれを塩だけを水に溶かして飲むのは、
効率が悪いから、飲んではいけないわけではないが、もっと効率よくとるためには、
塩として単独にとるのではなくて、
ゴマ塩、ミソ、醤油、漬物、梅干し、たくあん、塩と油のいためもの、
というように食物と組み合わせてとるのが効率がよい。
ということを心得ておいていただきたい。ということである。
 これは食物の中に住んでいる微生物″の働きで、効率が非常によくなるからである。
「卵醤」の作り方
※作り方
有精卵(手に入らないときは、無精卵でも仕方がない)
全卵一個を器にとり、からの片方になみなみの一杯の辛口醤油を加え、かき混ぜて飲む。

※用法
一日一個(一日の内いつ飲んでもよい)として、三〜四日続けたらいったん中止し、
一週間後くらいから、また、二〜三日つづけ中止する。
それ以降は、一週間に一個程度とする。
本人の体質により個人差があるので、どのくらいの感覚で飲んだらいいかは、自分で見極める事。